週末に、勘九郎襲名披露夜の部へ行ってきました。
一、御存 鈴ヶ森(すずがもり)
幡随院長兵衛 中村吉右衛門
東海の勘蔵 坂東彌十郎
北海の熊六 中村錦之助
飛脚早助 市村家橘
白井権八 中村勘三郎
鈴ヶ森というと、芝翫の権八が良かったのが記憶にありますが、それ以外はあんまり面白いと思った記憶がなく、それほど好きな演目ではないのですが、今回のは素晴らしかった。吉右衛門と勘三郎の久しぶりの共演という大顔合わせということで、観ていてワクワクしましたし、二人の間に漂う緊張感も感じられました。
勘三郎の権八には何とも言えない柔らかみ、色気と同時に、逃げている若者の神経質な緊張感も感じられました。
吉右衛門の長兵衛は、駕籠の垂を跳ねあげて登場した瞬間からその人物の大きさで周囲を圧倒するようでした。駕籠にかかった提灯の灯りで刀を見る権八とそれをじっと見る長兵衛の対峙した姿、緊迫感、なんとも言えない息詰まるようなものがありました。
そして「お若えのお待ちなせえ」というセリフのかっこ良さ。長兵衛のセリフを聞いている権八の油断のない表情もよかった。
そのあとの長兵衛の名乗りの有名なセリフの部分も耳に心地よく、素晴らしかった。
二、六代目中村勘九郎襲名披露 口上(こうじょう)
中村勘太郎改め勘九郎
中村勘三郎
片岡我當
坂東三津五郎
坂東彌十郎
中村芝雀
片岡秀太郎
中村吉右衛門
片岡仁左衛門
中村東蔵
中村扇雀
中村錦之助
中村橋之助
中村福助
中村七之助
出演者一同が家族のような、温かい口上でした。勘三郎が芝翫のことにふれたときには、思わず涙が出てしまいました。
三、新歌舞伎十八番の内 春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)
小姓弥生後に獅子の精 中村勘太郎改め勘九郎
胡蝶の精 中村玉太郎
同 中村宜生
用人関口十太夫 片岡亀蔵
家老渋井五左衛門 市村家橘
局 吉野 中村歌女之丞
老女 飛鳥井 中村小山三
後見 中村七之助
前半の弥生は折り目正しいきっちりとした踊り。後半の獅子の精は、躍動感があって、はじけるような生命感にあふれていました。
関の扉を観た時も思ったのですが、勘九郎は踊りでポンっと跳ねたときの姿勢がきれいだと思います。
老女飛鳥井役の小山三が元気なのが素晴らしい。後見の七之助が兄をじっと見つめる表情も印象的でした。
四、ぢいさんばあさん
美濃部伊織 坂東三津五郎
宮重久右衛門 中村扇雀
宮重久弥 坂東巳之助
妻きく 坂東新悟
戸谷主税 大谷桂三
石井民之進 市川男女蔵
山田恵助 片岡亀蔵
柳原小兵衛 坂東秀調
下嶋甚右衛門 中村橋之助
伊織妻るん 中村福助
今までに、團十郎・菊五郎、仁左衛門・玉三郎などのコンビで観てきましたが、今回の三津五郎・福助はとてもよかった。
序幕は夫婦の仲の良さがとても自然に伝わってきました。
料亭の場面では三津五郎と秀調、桂三らの同僚が和気あいあいと仲の良い雰囲気がうまく、そのあとの下嶋の登場との対照的な様子が引き立ちました。酔ってからんでくる橋之助の下嶋は「悪いやつではないのだ。ただしつこいのだ。」という伊織の言葉のとおり、ネチネチと因縁をつけ、徐々に徐々にエスカレートしていく酔っ払いの嫌味な様子がうまく、耐えていた伊織が思わず斬ってしまうのも無理もないと思われました。
三十七年後の場面では三津五郎の「わしは帰ってきた」というセリフなどにも万感の思いがあふれていて、三十七年の長さを感じました。
福助も比較的丁寧におとなしく勤めていて、長く奥女中を勤めていた女性らしい雰囲気が出ていたと思いました。
何度も見てストーリーはわかっているのにやっぱり最後は思いっきり泣かされてしまいました。
巳之助、新悟の若夫婦が爽やかでした。