第三部の盛綱陣屋は今月一番良かったと思います。
何といっても仁左衛門と吉右衛門が素晴らしい。吉右衛門も盛綱役者というぜいたくさで、二人とも義太夫狂言のうまい人なので、この二人が出てる場面は知の盛綱と剛の和田兵衛の対比が素晴らしく、観ていて本当に見ごたえがありました。
仁左衛門の盛綱、首実験は顔の表情が微妙に変わっていく様子が丁寧で感情がとてもよくわかりました。
金太郎の小四郎がけなげで泣かされました。
東蔵、時蔵、芝雀の女形三人が抑えめな演技ながら感情が伝わってきて、この家族の悲劇がはっきりと浮き彫りになった感じがしました。
我當がそうとう足が悪い感じでしたが、独特の雰囲気があって、北条時政といえばこの人以外考えられないですね。
それから、注進が二人ともよかった。橋之助は若々しくキビキビとしていて、翫雀は、軽妙で、この重い芝居の良いアクセントになっていました。
幕切れの絵面が大きく、歌舞伎を観たなあという充実感を味わいました。一瞬も気を抜くことができない濃密な舞台で、二時間弱の長さをまったく長いとは感じませんでした。
勧進帳は、團十郎のが好きだったので、思い出してちょっと哀しくなってしまいました。
菊五郎の富樫は相変わらず颯爽としていてよかったし、梅玉の義経もいつもながらの安定感。
四天王も、弁慶経験者の松緑に将来やれそうな染五郎、勘九郎と次代を担う人たちが出ていて将来が楽しみになりました。
最後の六法のところで「弁慶日本一」という無粋な大向こうがかかったのが残念でした。この日は手拍子は起こらなくてホッとしました。
近江源氏先陣館
一、盛綱陣屋(もりつなじんや)
佐々木盛綱 片岡仁左衛門
篝火 中村時蔵
早瀬 中村芝雀
伊吹藤太 中村翫雀
信楽太郎 中村橋之助
竹下孫八 片岡進之介
四天王 市川男女蔵
同 坂東亀三郎
同 坂東亀寿
同 澤村宗之助
高綱一子小四郎 松本金太郎
盛綱一子小三郎 藤間大河
古郡新左衛門 松本錦吾
微妙 中村東蔵
北條時政 片岡我當
和田兵衛秀盛 中村吉右衛門
武蔵坊弁慶 松本幸四郎
源義経 中村梅玉
亀井六郎 市川染五郎
片岡八郎 尾上松緑
駿河次郎 中村勘九郎
太刀持音若 中村玉太郎
常陸坊海尊 市川左團次
富樫左衛門 尾上菊五郎